悼む人(天童荒太)

悼むために全国を行脚し、見ず知らずの人の終焉の地で祈りを捧げる主人公・静人。「悼む」という行為は私には理解しにくいが、静人の母・巡子の闘病、そして死を迎える姿に圧倒された。 表紙の写真は彫刻他舟越桂氏の「スフィンクスの話」という。著者自らの…

こぎん刺し

最近とてもやってみたいと思っているもの。テレビの趣味講座でもやってた。もともとは津軽の伝統工芸。目の粗い粗末な衣服しか着用できなかった農民たちの生活の知恵。粗い目をふさぐように刺す。パターンの名前も生活に関連していて興味深い。たとえば「ベ…

f植物園の巣穴(梨木香歩)

四日かかってようやく読み終えた。結末はそれなりに収まってすっきりしたが、主人公の過去のトラウマを夢の中でたどり、やがて再生していくという筋立て。不思議な現象が次々とあらわれるので、理解するのに苦労した。歳のせいか、だんだんこういう深層心理…

猫の水につかるカエル(川崎徹)

著者はもとCMディレクター。興味深いタイトル。第一話「傘と長靴」。主人公は公園の猫の餌やりおじさんとして、野良猫たちの生死を見送る。ひとくせあるホームレスのえのもとさんとも交流がある。勤勉な勤め人だった父。雨の日に傘と長靴をもって駅に迎えに…

世界一の美女になるダイエット

これは体操クラブの先生、一押し。今更だけど「みなで世界一の美女に!」を合い言葉に回覧させてもらっている。流し読みするつもりが、結局メモをとりながら読了した。著者はミスユニバースジャパンの栄養コンサルタント。例のくららさんとか、理世さんとか…

風が強く吹いている(三浦しをん)

箱根駅伝を目指す寛政大陸上部。10人の部員はほとんどが素人。卓越した指導力で寄せ集め集団を箱根に導く清瀬灰二、才能に恵まれた孤高のランナー蔵原走(カケル)。だんだん物語に引き込まれ、終盤の駅伝シーンは実況放送を見ているようだった。さわやかで…

独楽吟(橘曙覧)

橘曙覧はクリントン大統領が天皇両陛下訪米の折、歓迎のスピーチの中で「たのしみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見るとき」という歌を引用して、更なる日米関係の改善をのぞむとしたことで知られる。橘曙覧は江戸時代後期の歌人。越前の国。28…

漢詩の講義(石川忠久)

昨日は大阪まで石川忠久氏の「李白の知られざる生涯」についての講義を聞きに出かけた。この本の内容に添った「白帝城」の新解釈など、洒脱な語りであった。詩中の「猿声」の猿はmonkeyではなく、gibbon(手長猿)だそうだ。氏の訓読は独特の調子があり、耳…

おそろし三島屋変調百物語事始(宮部みゆき)

いやー、「おそろし」面白かった。息もつかせず読ませる。さすが宮部みゆき、稀代のエンターテイナーですな。 自身も心に鬱憤をかかえる娘・おちかは、叔父の命で怪異を語る人々の話を聞きとることになる。自分の心の奥を見つめ直し、他者の痛みを理解し、お…

佐保姫伝説(阿刀田高)

この人の著書は、好きでよく読む。日常のちょっとした怖さを描いて軽妙。でもなんだか好みの女性像があるように思う。「佐保姫」とは妙なる響きと思ったが、春の女神だそうだ。 他に「初詣」「紅の恐怖」「大きな夢」「ちょっと変身」「象は鼻が長い」「恨ま…

かもめー食堂ーかたつむり

「かもめ食堂」(群ようこ)と「食堂かたつむり」(小川糸)を続けて読んだ。「かもめ食堂」は想像通りの展開。フィンランドで「こども」と侮られながらも着実に当地の人々の心をつかんでいく主人公の女性に好感が持てる。武道で鍛えた大和魂すら感じる。ま…

有頂天家族(森見登美彦)

昨夜ようやく「有頂天家族」を読み終えた。狸と天狗と人間とが入り乱れて、京都の町をうごめく。一番のくせものはやはり人間。しかし人間の中にも狸的、天狗的なものがある。主人公の狸の父親が狸鍋になってしまったという設定にどうも気持ちがひっかかって…

プリンセス・トヨトミ(万城目学)

前から狙っていた「プリンセス・トヨトミ」。図書館の予約がやっとまわって来たので、一気に読んだ。やっぱり面白いし、読後感がさわやか。救いがあるというか、浮き世も棄てたものでなし、というか。 この人の小説は「鴨川ホルモー」にしても「鹿男」にして…

やさしいため息(青山七恵)

主人公は二十代独身女性。親しい友人も恋人もなく、変わり映えのしない日常。ある日弟の風太が4年ぶりにもどってきて居候する。風太は巧みに家事をこなし、帰宅した姉に一日何をし、誰としゃべったかをたずね、メモをとる。 とらえどころがないようで、なん…

眠る鯉

早朝娘が帰り、午前中に「眠る鯉」(伊集院静)を読んだ。 「花いかだ」「川宿」「う八」「しぐれの実」「時計の傷」「ラビット君」「眠る鯉」を収録した短編集。人生の晩年を迎えた主人公の懐古など。 人の本当のところは見えないもの、目でみえているもの…